あと2年で日本はITにおける敗者になる?経産省が本気でDX推進する理由

2018年9月、DXレポート内で発表された「2025年の崖」は多くの企業から関心を集めて
います。「2025年の崖」とは一体何なのか、この問題にどのように立ち向かっていくの
か、経済産業省でデジタルトランスフォーメーション(以下DX)を推進する2名の方にお
話しを伺いました。

 

DX推進が2025年の崖を克服する鍵

ーー経産省が警鐘を鳴らす「2025年の崖」について教えてください。

和泉:現在あるITの問題を放っておくと、ITの問題がすべて集中しちょうど2025年に重なってしまい、混乱が起きるという問題のことです。問題をこのまま放っておくと、日本企業はデジタル技術とデータを活用した新たな価値を生み出せなくなるだけでなく、過去のIT資産の維持管理費用が高騰するなどし経済損失に繫がってしまうということです。

あまり認知されていませんが、“昭和100年問題”というものがあって、年号を計算する際に一旦「昭和」から計算をするように作られたシステムがあるのですが、2025年に昭和が3桁を迎えることで不具合が起きる可能性が指摘されています。

さらにドイツSAP SE社の製品「SAP ERP」の保守期限が切れるのも2025年。また、団塊の世代が後期高齢者(75歳以上)になることもあり、IT人材不足は43万人まで拡大すると試算されています。

基幹システムを21年以上稼働している企業の割合は全体の6割を占め、それらの企業のIT予算の9割以上が保守運用に費やされることになる。古いITシステムにばかり予算が振り向けられ、新たな領域への投資が困難となる危機的状況になるのです。

そんな中で、IT産業の年平均成長率は、アメリカが6%、後ろから中国が15%で追いかけてくるのに対して、日本はたったの1%。それが5年も続くと大きな差になっていますし、5年後にこういった2025年問題に対応することに追われることで、日本は国際競争から取り残され、デジタル競争の敗者になるだろうと。

ーー「2025年の崖」がDX推進のきっかけだったんでしょうか?

田辺:もともとは、レガシーを刷新していこうというところから議論がスタートしました。これまで日本では、既存のシステムを拡張するなど、「私たちに任せていただければできます」と言ってITベンダーが主導的に提案し、ユーザー側はシステムのことを考えなくてもよいという傾向が歴史的に続いてきています。

これは、ITが一部業務の電子化など生産性向上だけを目的としていた場合には問題にありませんでしたが、今やデジタル技術とデータ活用はビジネス全体を変革する鍵となってきています。デジタル技術の可能性は本来もっと大きいはずで、ユーザーがもっと自由に選んでビジネスに使用できるはずなのに、そうならずに来てしまった。

逆に言えば、レガシーを脱却できれば、レガシーシステムに掛かっていた維持管理のコストをバリューアップの投資に向けられるのではないかということが仮説としてありました。

ーーDX推進の具体的な取り組みが「2025年の崖」レポートやDX推進指標ということですか?

田辺:そうですね。2018年5月に「DX研究会」を立ち上げ議論を始めました。同年9月に、問題提起と、処方箋をまとめたものとして、政府として出すには若干刺激的な「2025年の崖」というキーワードを含む『DXレポート』をまとめました。

もともとはレガシーを変えていこう、というところから議論はスタートしましたが、議論していく過程で、最終的にはもっと経営の問題であるという結論に達しました。そこで、いくつか経営層に訴えられるようなもの、そして経営層が活用できるものを作りましょうということが決まりました。

2025年の崖へ対応した後の目標として、「維持管理に掛けるコストとバリューアップに掛けるコストの割合を6:4にしていく」であるとか、「ベンダー側に偏っているIT人材比率を本来目指すべき姿5:5を目指す」つまり、ユーザー側で業務を知ったうえでITを活用できる人材を増やしていくことなどを挙げており、そのために政府として進めていくべきことを処方箋として示しました。

そのレポートの処方箋に従って、更に議論を深め、2018年の12月に『DX推進ガイドライン 』を作成しました。

これは、経営者がDXの実現やITシステムの構築を行う上で、押さえるべき事項を明確にすることを目的にしたものです。システムの話もありますが、より大きな提案としては、経営者にはデジタル技術を活用したビジネスについて明確なビジョンを持って対応してほしい、と提言したつもりです。

DX推進ガイドラインの内容を踏まえ、2019年7月の終わりに「DX推進指標」を公表しました。
「DX推進ガイドライン」で示されている取組方策を経営の観点、ITシステムの観点、定性指標、定量指標で示すことで、企業の現状を比較し、各企業がどのくらいの成熟度にあるのかを自己診断できるものとなっています。

例えば、IT部門の社員が経営者層にデジタル技術を活用した経営改革の必要性などを訴えるときに、明確な数値があると話しやすいのではないかとわたしたちは考えました。この「DX推進指標」をコミュニケーションツールとして使っていただき、自分たちの理想を考え議論していくきっかけになればと思いました。

ーー今後の取り組みについて教えてください

田辺:今現在取り組んでいることとしては、DX推進指標をもとに自己診断を行った企業の皆様の協力をいただき、データを集めています。そこから自社の取組と比較可能なベンチマークを策定しようとしています。

比較対象ができることで、各企業が自己診断を行ったときに「うちは全体の平均値よりかなり低いじゃないか」と自覚でき、DX推進の後押しになればと考えています。

既に速報版として、230社以上からいただいた回答をベースに、独立行政法人情報処理推進機構において各指標項目の平均値を整理した結果を、提出いただいた企業にお送りしています。年度末までには、より詳しい分析を提供できればと考えています。

経営者がITへの意識を必要とされる時代

ーー最後に経営者の方へメッセージはありますか?

田辺:これからは、ユーザー側が「こういうシステムがほしい」と思ったときに、「では御社に合う特別なものを作りましょう」ということではなくなっていくと思うんです。

ユーザー側が、自由に技術を選択できるような世界、個人で言えば、iPhoneのアプリを自分で好きなように選べるように、ビジネスのシステムもなっていくでしょう。そういったことを捉えて対応していくベンダーがいればそれは勝機になると思いますし、今までのように、「発注されたらなんでも作ります!」という待ちの姿勢になっていると今後は競争上厳しくなっていくのではないかと考えます。

そういった時代では、ユーザー側の経営者は、漠然としたシステムをベンダーにお任せして作ってもらうのではなく、ビジネス上の優位に立つためにITをどのように活用していくのかを真剣に考え、業務のやり方そのものを変革するくらいの覚悟をもってITに向き合い、経営者自らがITへの意識を高めていく必要があります。

ーー経営者に危機感が必要ということですね。

田辺 「2025年の崖」などの問題も、結局は経営者が理解と危機感を持ってこの話に取り組まないと進まないだろうと考えています。行政と経営者とが一緒になって、DX推進していけるように取り組んでいきたいです。

≪編集部より≫

今回の取材で、経済産業省がDX推進にかなり力を入れられていることを感じました。WizCloudとしても、官民一体となってこのDX推進に取り組んでいきたいと考えます。

また、先進的なデジタル経営に取り組む企業を格付けする制度「DX格付」を、2020年度を目途にスタートさせる、ということもこの10月に発表があり、ますます動きは加速していくことと予測できます。これからも経済産業省の動きに注目し、追っていきたいと思います。


ソフトウェア・情報サービス戦略室長:田辺 雄史

ソフトウェア産業戦略企画官 博士(工学):和泉 憲明



【参考URL】
2018年5月 「デジタルトランスフォーメーションに向けた研究会」を設置
2018年9月 『DX レポート~IT システム「2025 年の崖」の克服とDX の本格的な展開~』
2018年12月 『デジタルトランスフォーメーションを推進するためのガイドライン(DX推進ガイドライン)』
2019年7月 『DX推進指標とそのガイダンス』
 

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