「免税事業者はずるい?」
課税事業者と免税事業者は、「適格請求書の発行可否」や「消費税の納税義務」などに違いがあります。
しかし「自分が課税事業者と免税事業者のどっちなのか分からない」「個人事業主はどちらを選択すべき?」など疑問を抱く方も多く見られます。
本記事では、課税事業者と免税事業者それぞれのメリット・デメリットを踏まえて違いを分かりやすく解説!
インボイス制度による影響や負担軽減のための特例措置なども紹介しているため、個人事業主やフリーランスの方は必見です!
目次
課税事業者と免税事業者の違いは?
消費税の課税事業者とは
課税事業者とは、 商品やサービスを販売する際にお客様から預かった消費税を、国に対して消費税を納める義務がある事業者 を指します。
売上に対する消費税額から、仕入れや経費で支払った消費税(仕入税額控除)を差し引いて、差額を納めるのが基本です。
また還付を受けたい場合などは、事業規模が一定以上ある場合に該当し、税務署への「課税事業者選択届出書」などを提出することで、自主的に課税事業者を選ぶことも可能です。
課税事業者となる条件(以下のいずれかに該当する場合)
- 基準期間(通常は2年前)の課税売上高が1,000万円を超える
- 特定期間の課税売上高が1,000万円を超える
※新設法人や一定の条件を満たす事業者は、「特定期間」の売上高や人件費を基準に、早期に課税事業者と判断される - 適格請求書発行事業者に登録している場合
たとえば、2023年の課税売上が1,100万円だった場合、2025年には課税事業者となります。
課税事業者が行うべき消費税等の申告
課税事業者は年に一度、消費税等の確定申告をしなければなりません。
また、 直前の課税期間※の確定消費税額(地方消費税額は含まない)が48万円を超える場合は、消費税等の中間申告を行う必要 があります。
※個人事業主の場合は前年、法人の場合は前事業年度
消費税の免税事業者とは
免税事業者とは、消費税の納税義務が免除されている事業者です。
売上時に消費税を受け取っても、それを国に納める必要がありません(ただしインボイス制度の導入以降は、取引先に影響が出る場合があります)。
主に年間の売上規模が小さい個人事業主や小規模法人が該当し、消費税の申告・納付義務がないため、事務負担が軽いという利点があります。
免税事業者となる条件(以下のいずれかに該当する場合)
- 基準期間(2年前)の課税売上高が1,000万円以下
- 新たに事業を始めて2年以内
ただし、特定期間において一定の条件(売上500万円超など)を満たすと、免税にならない場合もあります。
自ら課税事業者を選択しない限り、条件に合致すれば基準期間の満了後も自動的に免税事業者として扱われます。
課税事業者と免税事業者の違いを比較
比較項目 | 課税事業者 | 免税事業者 |
---|---|---|
消費税の申告・納付義務 | あり | なし |
仕入税額控除の適用 | 可能(支払った消費税が控除される) | 不可(消費税の控除は受けられない) |
インボイスの発行 | 可能(適格請求書発行事業者として登録可能) | 不可(発行できない) |
会計・帳簿の手間 | 複雑(記帳・申告作業が増える) | 簡易(簡単な管理で済む) |
帳簿付けの方式 | 税込経理方式 または 税抜経理方式 | 税込経理方式 |
帳簿や請求書の保存義務 | あり | なし |
信用性・ビジネス拡大の面 | 高い(法人や大手企業との取引で有利) | 低い(インボイス非対応で敬遠されることも) |
消費税分の実質利益 | 少ない(預かった税を納付) | 多い(預かった税を納付しなくてよい) |
-
帳簿付けの方式の違いについて
-
|経理方式を任意で選べる
課税事業者の場合、「税込経理方式」と「税抜経理方式」 どちらの経理方式を選択しても納税する消費税額は変らないため、任意で選択できます 。ただし、原則としてすべての取引について同一の方式で帳簿付けをする必要があります。
|消費税に関する事項も記帳が必要
消費税の課税事業者は帳簿への記帳を行う際、消費税に関する事項も併せて記帳する必要があります。「税込経理方式と税抜経理方式のいずれの方式を選択するか」「申告に関しても後述する簡易課税制度を選択するか否か」でそれぞれ異なるため注意が必要です。
また、軽減税率の対象となる取引がある場合は、税率ごとに区分して記帳するなどの経理(区分経理)を行う必要があります。
免税事業者はずるい?
「免税事業者=ずるい」と思われがちですが、制度として合法的に認められている仕組みです。
確かに消費税を納めずに済む一方、 インボイス制度の開始により、取引先が仕入税額控除を受けられなくなるデメリット があります。
そのため、取引先との関係性や今後の事業拡大を考え、課税事業者になるかどうかの判断が求められます。
課税事業者のメリット・デメリット
- 仕入税額控除が受けられる(支払った消費税が控除可能)
- インボイス発行事業者として信頼性がある
- 取引先とのビジネスチャンスが広がる
- 高額な設備投資時に消費税還付を受けられる可能性
- 消費税の申告・納付義務がある(事務負担増)
- 毎年の会計処理や帳簿管理が複雑になる
- 消費税分の価格競争で不利になることも
免税事業者のメリット・デメリット
- 消費税の申告・納税義務がない(事務負担が少ない)
- 受け取った消費税分が実質的な利益になる
- 小規模事業者にとって管理が簡便
- 仕入税額控除が受けられない
- インボイス制度の影響で取引先が減る可能性あり
- 規模拡大や法人取引で不利になることがある
消費税のしくみ
消費税には仕入税額控除が適用される
事業者は 売上時に受け取った消費税から、仕入や経費で支払った消費税を差し引いて納税 します。
これを「仕入税額控除」と言い、二重課税を防ぐための制度です。
課税事業者が納める消費税等の額の計算方法
課税事業者が納める消費税等の額は、以下の計算式で算出します。
「預かった消費税」-「支払った消費税」=「納めるべき消費税額」
ばお、正確な帳簿と請求書の保存が必要となり、年次申告にて国に納付します。
自分が課税事業者かどうか確認する方法
基準期間による判定基準
基準期間における課税売上高が1000万円を超えている場合は課税事業者 となり、消費税の申告と納税が必要になります。基準期間とは
- 個人事業者の場合:申告対象年の前々年
▶例|2025年分の消費税申告をする場合、基準期間は2023年) - 法人の場合:申告対象事業年度の前々事業年度
▶例|2025年4月~2026年3月までの事業年度分の消費税申告をする場合、基準期間は2023年4月から2024年3月まで
売上高には商品の販売やサービス提供のほか、家賃収入なども含まれる場合があります。過去の帳簿や確定申告書を確認することで、自分が課税事業者かどうか判断できます。
特定期間による判定基準
基準期間では免税事業者と判定されても、 特定期間における課税売上高および給与等支払額の両方が1000万円を超えている場合は課税事業者 となります。
特定期間とは
- 個人事業者の場合:前年の1月1日から6月30日まで
▶例|2025年分の消費税申告をする場合、特定期間は2024年1月1日から6月30日まで - 法人の場合:申告対象事業年度の前事業年度の前半6か月
▶例|2025年4月~2026年3月までの事業年度分の消費税申告をする場合、特定期間は2024年4月~2024年9月まで
特定期間による判定は、売上が急増した場合などに早期に課税義務が発生する仕組みで、注意が必要です。
課税事業者と免税事業者は移行できる
免税事業者から課税事業者へ移行するための手続き
免税事業者が自ら課税事業者へ移行したい場合は、 「課税事業者選択届出書」を税務署に提出 する必要があります。
提出期限は原則として課税期間が始まる前日までです。例えば、2024年1月1日から課税事業者として扱われたい場合は、2023年の12月31日でに提出が必要です。
なお、一度選択すると原則2年間は変更できません。
【注意】売上高によって自動的に課税事業者になる場合も、税務署への届出が必要
基準期間や特定期間の判定により 自動的に課税事業者となる場合も、納税地の税務署に対して「消費税課税事業者届出書」を提出する必要があります 。
また、インボイス制度に対応するためには、課税事業者であることに加えて「適格請求書発行事業者」の登録も別途必要です。
課税事業者から免税事業者に戻るための手続き
課税事業者が再び免税事業者になりたい場合は、 「課税事業者選択不適用届出書」を税務署に提出 します。
ただし、以下の条件を満たさなければ届出は認められません。
- 基準期間の売上が1,000万円以下である
- 課税事業者となってから最低2年が経過している
免税に戻ることで事務負担は軽くなりますが、インボイス発行ができなくなるなどのデメリットもあるため、慎重な判断が必要です。
インボイス制度導入後の課税事業者・免税事業者への影響
「インボイス制度」とは
インボイス制度(適格請求書等保存方式)とは、 売手が買手に対して、正確な税率や消費税額を記載した「適格請求書(インボイス)」を発行・保存することが求められる制度 です。
2023年10月に導入され、仕入税額控除を受けるためには、仕入先からインボイスを受け取る必要があります。
適格請求書を発行できるのは、税務署に登録された「適格請求書発行事業者=課税事業者」に限られます。
課税事業者への影響(年間売上高が1千万円以上)
課税事業者は、 仕入先がインボイス発行事業者であることを確認し、正確な帳簿とインボイスを保存しなければ、消費税の控除が受けられません 。
これにより、取引先の選定や請求書の確認・管理業務が煩雑になるほか、経理処理やシステム対応の見直しが求められます。
インボイスを発行できない免税事業者から仕入れをすると、控除が受けられない分キャッシュフローがマイナスになるため注意が必要です。
インボイスを発行できるというメリットも!
課税事業者は、「適格請求書発行事業者」として税務署に登録することで取引先にインボイスを発行できます。
取引先が課税事業者であれば、 自社が「仕入税額控除に対応できるお店」として認識され、取引先との継続的な契約が期待できるほか、新規の仕入先としても選ばれやすくなるでしょう。
免税事業者への影響(年間売上高が1千万円以下)
免税事業者は適格請求書を発行できないため、取引先が仕入税額控除を受けられなくなります。
このため、 免税事業者との取引を避ける企業も増加し、特にBtoB取引において不利な立場に置かれる可能性 があります。
一方、取引継続のために課税事業者へ転換すると、消費税を納める義務が生じるほか、税務手続きの手間も増えてしまいます。


インボイス制度下で課税事業者が負担を軽減する方法
簡易課税を選択する
簡易課税制度とは、実際の仕入れや経費に基づく 仕入税額控除の代わりに、業種ごとに定められた「みなし仕入率」を用いて消費税額を計算する方法 です。
主に中小事業者向けの制度で、課税売上高が5,000万円以下であることが条件となります。たとえば小売業は80%、サービス業は50%など、業種別にみなし仕入率が定められています。
記帳や計算の手間が減り、実際の仕入れが少ない事業者ほど有利になる場合があります。
2割特例の適用を受ける
2割特例とは、インボイス制度への急な対応による負担を軽減する目的で設けられた制度です。
対象の事業者は、3年間に限り消費税の納税額を「売上にかかる消費税額の2割」に軽減できます。
対象となるのは、2023年10月から2026年9月までの期間中、免税事業者からインボイス登録をして課税事業者となった小規模事業者です。
仕入税額控除の計算や帳簿管理が難しい場合でも、一定の納税額に抑えられるため、特に準備期間の短い事業者にとって大きなメリットとなります。課税事業者・免税事業者に関するよくある質問
A
個人事業主が課税事業者になるには、原則として「課税事業者選択届出書」を税務署に提出する必要があります。
また、インボイス制度に対応するためには「適格請求書発行事業者の登録申請書」も必要です。
A
課税・免税の判定には、原則として「基準期間」の課税売上高(2年前の売上)が1,000万円を超えているかどうかで判断されます。ただし、「特定期間」(前年度の前半6か月間)の売上や給与支払い額も一定条件を満たすと課税義務が発生します。
つまり、売上が年によって前後する場合は、毎年の基準期間と特定期間を確認することが重要です。売上がギリギリのラインで変動する場合は、税理士に相談しながら早めに対策を立てるのが安全です。
A
結論、収入の規模や取引先によって、どちらが得かはケースバイケースです。
副業収入が年間1,000万円以下であれば、原則として免税事業者となります。納税義務がなく、事務負担も少ないため、当初は免税のままの方がメリットがあります。
ただし、取引先がインボイスを求める場合は、課税事業者にならないと契約を打ち切られる可能性もあります。
そのため、顧客が法人中心かどうか、自身の経費の多寡、将来的な事業拡大を見越して判断するのが良いでしょう。
A
取引先が免税事業者の場合、適格請求書(インボイス)が発行されないため、仕入税額控除を受けられません。その結果、控除がなくなった分キャッシュフローがマイナスになるため、実質の利益高が減少する可能性もあります。
まとめ
「課税事業者」と「免税事業者」の違いは、主に消費税の納税義務の有無にあります。
課税事業者は消費税の申告と納付が必要で、仕入税額控除やインボイスの発行が可能。一方、免税事業者は納税義務がない代わりに、インボイス制度において不利な立場になることがあります。
事業の規模、取引先との関係、経費の割合などを考慮して、自分にとって有利な立場を選択することが重要です。

この記事を書いたライター
Wiz Cloud編集部
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