インボイス制度の「2割特例」とは?要件やメリット、対象期間などを解説

「インボイス制度の2割特例とは?」
「簡易課税とどっちが得?」


「2割特例」とは、インボイス制度によるインボイス制度による事業者の消費税負担を軽減するための経過措置です。

しかし、「事前に申請や届出は必要?」「適用の対象となる事業者は?」といった疑問も多くみられます。

今回は、2割特例の要件や適用期間、納税額の計算法などを徹底解説します。

簡易課税との違いについても触れているため、インボイス制度を機に課税転換する事業者に役立つ記事です。

インボイス制度における「2割特例」経過措置とは?

クエスチョンマーク

納税額が売上税額の2割に軽減

「2割特例」は、 インボイス制度による事業者の消費税負担を軽減する目的 で設けられた経過措置です。

免税事業者がインボイス制度を機に課税事業者となった場合、一定期間は消費税の納税額が売上税額の2割に軽減されます。

導入の背景には、小規模事業者の税負担を緩和することで、インボイス登録を促す意図があります。

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2割特例における消費税の計算方法

「2割特例」適用時は、 「納税額= 売上にかかる消費税額 × 20%」 で消費税額を算出します。

たとえば、売上800万円(税額80万円の場合、消費税の納税額は「80万円×20%=16万円」となります。

本則課税・簡易課税との比較

売上800万円(税額80万円)・経費200万円(税額20万円)・サービス業の場合、納税額はそれぞれ以下の通りです。

 
本則課税の場合 納税額=80万円-20万円=60万円
簡易課税の場合 納税額=80万円-(80万円×50%*)=40万円
*サービス業のみなし仕入れ率
2割特例の場合 納税額=80万円×20%=16万円

2割特例の基礎知識

説明

事前申請や届出は不要

2割特例は、 消費税の確定申告書に「2割特例の適用あり」と付記するだけで適用を受けられます。

つまり、制度利用にあたって事前に届出を提出したり、申請手続きをしたりする必要はありません。

継続適用の縛りはない

2割特例には、「最低○年間の継続適用」といった縛りが無く、 消費税の申告を行うたびに適用するかどうかを選択できます

ただし、申告ごとに特例対象期間(令和5年10月1日から令和8年9月30日までの日の属する課税時期間)であるか否かの確認は必要なので、注意しましょう。

原則課税・簡易課税を選択した場合も選べる

インボイス登録の際に本則課税・簡易課税のいずれかを選択している場合も、消費税の申告時に希望すれば2割特例を適用できます。

そのため、簡易課税制度の適用を受けるための届出書を提出していたとしても、 2割特例の方が有利な場合は後者で申告することが可能です。

2割特例の終了後は簡易課税を申請できる

2割特例の期間終了(2026年10月1日)以降の課税期間は、要件を満たす事業者に限り簡易課税制度を選択できます。

また、売上が1,000万円を超えるなど、2割特例の期間中に対象事業者でなくなった場合に関しても、要件を満たしていれば翌課税期間から簡易課税制度を適用可能です。

2割特例の終了後、本則課税よりも納税額の軽減が期待できる場合は 「簡易課税制度選択届出書」の届出を行い、簡易課税を利用できるようにしておきましょう。

​​​​​2割特例の対象となる要件

チェックリスト

対象となる事業者

2割特例の対象となるのは、 インボイス制度を機に免税事業者から課税事業者へと転換し、適格請求書発行事業者に登録した事業者です。

また、2割特例を適用するには、「前々(事業)年度の課税売上が1,000万円以下」である必要もあります。
2割特例の条件
  • 2023年10月1日(日)~2026年9月30日(水)の課税期間中に免税事業者が新たに課税事業者になった
  • 「適格請求書発行事業者」に登録した
  • 前々(事業)年度の課税売上が1,000万円以下

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対象とならない事業者

以下のような事業者は、2割特例の対象となりません。

2割特例の対象とならないケース
  • 前々(事業)年度の課税売上が1,000万円を超える事業者
  • 前々(事業)年度の課税売上が1,000万円以下だが、2023年10月1日の属する課税期間以前から課税事業者になっている事業者
  • 課税期間の短縮をしている事業者

2割特例の適用期間

カレンダー

2割特例は、 2023年10月1日から2026年9月30日までの日の属する各課税期間 でのみ適用が可能です。

個人事業者は、一律で2023年10月1日から2026年12月31日まで2割特例を適用できる一方、法人は「決算期がいつか」によって適用期間が変わります。

たとえば、3月決算の法人の場合、2023年10月1日から2027年3月31日までの各事業年度が対象となります。

2割特例のメリット

メリット

納税額を抑えられる

2割特例を適用すると、 多くの業種で節税効果が得られます

簡易課税と比較した場合、卸売業と小売業等以外の業種においては、2割特例のほうが控除割合が大きくなります。

そのため、課税事業者に転換して納税義務が発生した場合も、負担増大を抑える効果が期待できます。

計算がラク

本則課税の場合、売上にかかる消費税額だけでなく、経費にかかる消費税額も算出したうえで納税額を計算する必要があります。

また、「計算がカンタン」と言われている簡易課税でも、値引きや返品、割り戻しがあった際には計算が複雑になってしまいます。

その点、2割特例は「売上にかかる消費税額 × 20%」の式で、対価の返還等も含めずに計算するため、 経理業務の大幅な負担軽減にも繋がります

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事前手続きが不要

割特例は、事前の届出や手続きなしで適用できる点もメリットです。

簡易課税の場合は、事前に簡易課税制度選択届出書を提出しなければ制度を利用できず、節税効果も得られません。

一方、2割特例は 申告書に「2割特例の適用あり」と追記するだけで済む ため、手続き忘れ等の心配も不要です。

都度ごとに適用を選べる

簡易課税の届出を出すと、最低2年間は本則課税に切り替えができません。

そのため、売上額の変動などがあった場合、簡易課税の適用によりかえって税負担が大きくなってしまう可能性もあります。

その点、継続適用の縛りがないため、 消費税申告の都度、有利な算出方法を選ぶことが可能です。

2割特例の注意点

注意点

還付はない

2割特例は簡易課税と同様、還付を受けられません。

つまり、 「預かり消費税<支払消費税」となった場合も、お金は戻ってこないということです。

特に、輸出免税を行っている事業者などは、還付を受けられる本則課税の方が得なケースもあるため、慎重に選択しましょう。

期間限定の措置

2割特例は、「2023年10月1日から2026年9月30日までの日の属する課税期間」のみ適用できる期間限定の経過措置です。

そのため、 一定期間が過ぎると2割特例による節税効果は得られなくなります

経過措置の終了後は納税負担が増えることを見越したうえで、課税転換するかどうかを慎重に判断しましょう。

インボイス登録した課税事業者のみ対象

2割特例を適用するには、免税事業者から課税事業者に転換したうえで、 「適格請求書発行事業者」に登録する必要があります

登録手続きが済んでいないと制度を利用できないため、あらかじめ登録申請の手続きを済ませておきましょう。

なお、インボイス制度の経過措置として、登録日が2023年10月1日から2029年9月30日の間にある場合は、「消費税課税事業者選択届出書」の提出を省略できます。

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少しでも条件が外れたら適用不可

基準期間の課税売上高が1000万円を超えた場合や、課税期間の短縮の届出を提出した場合は、2割特例を適用できなくなります。

消費税の申告をする際は、 自社が適用条件をきちんと満たしているか必ず確認しましょう。

簡易課税との選択適用は別途届出が必要

簡易課税と2割特例を適宜選択したいと考えている場合、「簡易課税は事前に届け出が必要」という点に注意が必要です。

場合によって簡易課税を選択したい場合は、2023年10月1日の属する課税期間の末日までに「簡易課税制度選択届出書」を提出しましょう。

2割特例と簡易課税の違いは?

クエスチョンマーク

2割特例と簡易課税の違いは、 「適用できる事業者」「​​​事前手続きの有無」「​​​​​適用期間の縛り」「計算方法」 の4点です。

  2割特例 簡易課税
適用できる
事業者の条件
  1. インボイス制度を機に課税転換
  2. 課税売上高が1,000万円以下
 課税売上高が5,000万円以下
事前手続きの有無 なし あり
適用期間の縛り なし あり
(2年間)
計算方法 売上にかかる消費税額 × 20% 売上税額ー売上税額×みなし仕入率

2割特例と簡易課税制度どちらが得?

天秤

簡易課税制度と2割特例のどちらが得かは、 業種や仕入金額の割合などによって異なります

2割特例は、業種を問わず一律で売上税額の2割が納税額になる一方、簡易課税制度では業種ごとにみなし仕入率が異なるためです。

ほとんどの業種は、2割特例を選択した方が納税負担が軽くなりますが、卸売業に関しては簡易課税制度の方が税負担が軽くなります。

業種ごとのみなし仕入れ率

事業区分 みなし仕入率  該当する事業
第1種事業 90% 【卸売業】
(他の者から購入した商品をその性質、形状を変更しないで他の事業者に対して販売する事業)
第2種事業 80% 【小売業】
(他の者から購入した商品をその性質、形状を変更しないで販売する第1種事業以外のもの)
【農業、林業、漁業】
(飲食料品の譲渡に係る事業)
第3種事業 70% 【農業、林業、漁業】
(飲食料品の譲渡に係る事業を除く)
【鉱業、建設業、製造業】
(製造小売業を含む)
【電気業、ガス業、熱供給業および水道業】
※第1種事業、第2種事業に該当するもの・加工賃その他これに類する料金を対価とする役務の提供を除く
第4種事業 60% 【第1種~第6種事業以外の事業】
(例:飲食店業など)
※第3種事業から除かれる加工賃その他これに類する料金を対価とする役務の提供を行う事業も含む
第5種事業 50% 【運輸通信業、金融業、保険業、サービス業】
※飲食店業に該当する事業を除く
※第1種~第3種事業までの事業に該当する事業を除く
第6種事業 40% 不動産業

 

インボイス制度におけるその他の特例措置

虫眼鏡

少額特例

少額特例とは、 仕入価格が1万円未満の場合、一定の事項を記載した帳簿の保存していればインボイス無しでも仕入税額控除が受けられるというものです。

ただし、少額特例を適用できるのは、要件に当てはまる中小企業が国内で課税仕入れを行う場合に限定されます。

対象事業者 2年前の課税売上が1億円以下
または
前年の1~6月(法人は事業年度の上半期)の課税売上が5,000万円以下
対象期間 2023年10月1日(日)~2029年9月30日(日)
 

インボイス登録で持続化補助金が上乗せ

適格請求書発行事業者に登録することで、 持続化補助金の補助上限額が50万円上乗せされます。

持続化補助金とは、小規模事業者の業務効率化や販路開拓などを支援するための補助金制度です。

申請する枠 補助上限額
(本来の補助上限額)
補助率
通常枠 100万円
(50万円)
原則2/3以内
成長・分配強化枠
(賃上げや事業規模の拡大)
250万円
(200万円)
新陳代謝枠
(創業・跡継ぎなど)
250万円
(200万円)

 

仕入税額控除の経過措置

インボイス制度の経過措置期間は、 免税事業者などからの仕入れについても一定の割合で控除を受けることが可能です。

2023年10月1日~2026年9月30日までは課税仕入れの80%、2026年10月1日~2029年9月30日までは50%が控除されます。

なお、簡易課税制度を選択している課税事業者の場合は、インボイス制度に必要な適格請求書の区分経理が必要ないため、この経過措置は適用されません。

適用条件
  1. 区分請求書の記載事項が満たされた請求書が交付・保存されている
  2. 控除を適用するための必要事項が記載された帳簿が保存されている
【必要事項】
・売り手の氏名または名称
・取引年月日
・取引内容
・経過措置の適用を受ける課税仕入れであること・その割合
・課税仕入額
適用期間 2023年10月1日~2029年9月30日
控除割合 2023年10月1日~2026年9月30日:仕入税額の80%
2026年10月1日~2029年9月30日:仕入税額の50%
 

インボイス登録の申請期限が延長

インボイス制度の施行初日からインボイス発行事業者になるには、2023年3月31日までに適格請求書発行事業者の登録をする必要がありました。

しかし、2023年度税制改正によって登録期限が延長されたため、 2023年9月30日までに登録申請をした事業者については、2023年10月1日からインボイス発行事業者になることが可能です。

2割特例に関するよくある質問

Q
インボイスの経過措置に関する国税庁の情報はどこで見れる?

A

インボイス制度および経過措置に関する情報は、国税庁のHPから確認できます。

Q
インボイス制度の施行で簡易課税はなくなる?

A

インボイス制度の施行後も簡易課税制度は廃止されないため、引き続き適用が可能です。

Q
インボイス経過措置の「80%仕入税額控除」とは?

A

「80%仕入税額控除」とは、インボイス制度における経過措置の一つです。
2023年10月1日~2026年9月30日までの期間は、免税事業者からの仕入れについても課税仕入れの80%が控除されます。

Q
インボイスの2割特例をわかりやすく言うと?

A

「2割特例」は、インボイス制度による事業者の消費税負担を軽減する目的で設けられた経過措置です。
免税事業者がインボイス制度を機に課税事業者となった場合、一定期間は消費税の納税額が売上税額の2割に軽減されます。

Q
インボイスの2割特例はいつまで適用できる?

A

インボイスの2割特例は、2023年10月1日~2026年9月30日までの日が属する各課税期間に適用可能です。

Q
課税売上高が1000万円以下で2割特例を受けられないケースはある?

A

課税売上高が1000万円以下でも、インボイス制度の施行以前から課税事業者に転換ていた場合は適用対象外となります。

Q
消費税の2割特例の申請方法は?

A

2割特例は、事前の届出や申請手続き等が不要です。
申告書に「2割特例の適用あり」と追記するだけで適用可能です。

まとめ

「2割特例」とは、インボイス制度による事業者の消費税負担を軽減する目的で設けられた経過措置です。

2割特例を適用することで、節税効果が得られたり、消費税額の計算がシンプルになることで経理業務の負担が軽減されたりします。

事前申請なしで利用できる制度なので、インボイス制度を機に課税転換する個人事業主やフリーランスは積極的に活用しましょう。

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