「日本にはどんな事例がある?」
オーバーツーリズムとは、観光地が受け入れ可能な観光客数を大幅に超える旅行者が押し寄せることで、地域住民の生活や環境、観光客の満足度を著しく低下させる状況を指します。
しかし、オーバーツーリズムは単なる観光客の増加だけが原因ではありません。背景には、SNSの普及による情報過多、LCCの登場による航空券の低価格化など、さまざまな要因が複雑に絡み合っています。
この記事では、オーバーツーリズムの具体的な事例や原因、そして対策についてわかりやすく解説します。
目次
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オーバーツーリズムとは観光公害のこと
オーバーツーリズムの定義と意味

オーバーツーリズム(Overtourism)とは、 観光地の収容能力を超える観光客が訪れることで、地域住民の生活や環境に悪影響を及ぼす現象 です。
観光庁によると、過度な混雑やマナー問題、文化・自然資源の劣化が主な課題とされています。
特に、SNSの普及によって特定の観光地が過度に注目を集めやすくなったり、や格安航空の発展で渡航のハードルが下がったりした結果、観光客が集中しやすくなっています。

編集部
オーバーツーリズムは、観光公害とも呼ばれています。
オーバーツーリズム問題の現状
観光庁の調査によると、2023年7-9月期の訪日外国人消費額は1兆3904億円と過去最高を記録。コロナ後の回復や円安による割安感が訪日客増加の要因です。
インバウンド消費は経済に恩恵をもたらす一方、 交通混雑やゴミ問題など地域住民への影響も深刻化 しています。特に京都、鎌倉、白川郷、石垣島ではオーバーツーリズムが顕著です。
政府は変動運賃の導入、混雑緩和策、入域料の検討、地方観光地の整備などを進め、持続可能な観光を目指しています。
観光と地域社会の共存は可能か?

観光と地域社会は対立するものではなく、適切な対策で共存可能 です。
観光は地域経済を支える重要な産業であり、住民の生活と調和する形で発展させる必要があります。
そのためには、観光客の分散、マナー啓発、地域資源の適切な管理が不可欠です。例えば、オフピークの訪問を促す施策や、観光税の導入による環境保全の強化が有効です。
住民・行政・観光業が連携し、地域の特色を生かした持続可能な観光モデルを構築することで、観光と地域社会のバランスをとれます。
オーバーツーリズムの原因

観光業の市場規模の拡大
オーバーツーリズムの原因の一つは、観光業市場の急拡大です。
2019年、国際観光客数は14.7億人に達し、10年で1.5倍に成長。新型コロナ後、2023年には12.9億人にまで回復し、需要が急増しています。
日本では、2019年に3,188万人の訪日外国人を記録しましたが、 政府の政策により急増し、2024年には3,687万人に達しました 。
移動の容易化
2000年代以降、 格安航空会社(LCC)の普及により、航空運賃が低価格化し、旅行が手軽に なりました。
特に短距離路線に強いLCCは、国内外の旅行を広げ、日本とアジア諸国を結ぶ路線も増加しています。
日本ではLCCが国内線で15%、国際線で20%を占め、旅行のハードルを大きく下げました。

編集部
ビザ要件の緩和も訪日観光を促進し、観光需要の急増を支えています。
民泊の台頭
2010年代半ばからの「民泊」の台頭は、観光地の新たな宿泊オプションとして注目されました が、その普及には課題もあります。
住宅地に民泊が進出すると、住民とのトラブルが発生しやすく、静かな環境が損なわれる恐れがあるのです。
2018年には民泊新法が施行され、特定の条件を満たした場合に限り、住居専用地域でも営業が許可されるようになりました。
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民泊とは、住宅や空き部屋を短期間貸し出す宿泊サービス
- 民泊とは、 住宅や空き部屋を短期間の宿泊施設として提供するサービス のことです。
通常、住宅が宿泊施設として使用されるため、ホテルや旅館とは異なり、家庭的な雰囲気が特徴です。観光客にとっては、ホテルや旅館の選択肢に加え、よりリーズナブルでユニークな宿泊先が増えるメリットがあります。
近年、民泊サービスはインターネットを通じて簡単に予約できるプラットフォーム(例:Airbnb)を通じて普及し、世界中の観光地で利用されています。
為替の影響
近年、円安が進行した影響で、旅行が外国人にとっての日本旅行が実質的に安くなっています 。
例えば、1ドル160円の時代では、1万円が約62.5ドルに相当し、外国人観光客にとって日本は「安い」国と認識されます。
その結果、観光客数が増加し、オーバーツーリズムにつながっているのです。SNSの普及
従来、観光地のイメージはテレビや雑誌が作っていましたが、インターネットとSNSの登場により、誰もが情報を発信できる時代になりました。
SNS利用者は2022年時点で45.9億人※に達し、特に写真を重視したSNSは観光地のイメージを急速に広めています。
その結果、 同じ写真を撮りたい観光客が集中し、地域住民の生活に影響を与えるケースが増加 しているのです。

編集部
「いいね」を求めて危険な場所に立ち入る行動も問題視されています。
政府・自治体の政策
政府や自治体は観光による地域活性化を目指し、 インバウンド観光客数の増加を推進してきましたが、その影響を十分に考慮してこなかった と言えます。
- 観光業を地域活性化の柱とし、インバウンド客数増加政策が進められた
- 初期目標は「2010年までに年間1千万人」、達成後も拡大を追求した
- 地方自治体も政策に呼応し、インバウンド誘致に積極的に取り組んだ

編集部
2023年には、観光立国推進基本計画により、目標値を設定しない方針に転換しています。
オーバーツーリズムの影響・問題点
観光地や住民への直接的な影響
- 混雑・渋滞
- 騒音やマナー問題
- ゴミのポイ捨て
- プライバシーの侵害(住民の日常生活への影響)
観光客の急増により、観光地や住民の生活に深刻な影響が生じています。
代表的な問題は、騒音・ゴミ問題です。 住宅地に押し寄せる観光客が深夜・早朝に騒ぐ、スーツケースを引く音が響く、ゴミが不適切に捨てられる といったトラブルが発生しています。
さらに、文化財や自然環境の損傷も問題視されており、一部の観光客による立ち入り禁止区域への侵入や落書きなどが景観や歴史的遺産を損なっています。
観光地における本質的な問題
- 地域住民の追い出し(ジェントリフィケーション)
- 観光依存による産業のモノカルチャー化
- 地域負担の増加(税負担・公共インフラの圧迫)
- 地域資源の過剰活用による環境劣化
オーバーツーリズムの影響で、地域住民が生活の場を奪われるジェントリフィケーションが進行しています。
観光需要の高まりで宿泊施設や飲食店が急増し、地価や家賃が高騰。これにより、 もともと住んでいた住民が生活を維持できず、転居を余儀なくされるケースが増えている のです。
特に観光地周辺の住宅地で顕著であり、地域社会の崩壊を招く恐れがあります。
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観光業の成長により、産業のモノカルチャー化も進む
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観光依存による産業のモノカルチャー化も、オーバーツーリズムがもたらす深刻な問題の一つです。
観光業が地域経済の中心となることで、他産業の衰退や雇用の偏りが生じ、経済の多様性が失われます。
特に観光需要の波が激しい地域では、不況時の打撃が大きく、パンデミックや災害などで観光客が減ると、地域全体が経済的に立ち行かなくなるリスクがあります。
オーバーツーリズムの事例と対策
日本の事例
- 京都(駐車場予約システム、混雑の可視化)
- 鎌倉(ルール整備、観光マナー啓発)
- 白川郷(完全予約制導入)
- 沖縄・宮古島(環境保全の取り組み)
- 金沢(お土産品の販売制限)
- 銀座(カプセルホテルの立地制限)
京都は日本の古都として人気があり、観光客が集中するためオーバーツーリズムの問題が深刻 です。
特に桜や紅葉シーズンでは観光地が混雑し、地元住民の生活に影響を及ぼしています。
祇園では観光客のマナー問題や、環境負荷、交通渋滞が悪化。また、観光客による地域住民の追い出しが進み、地元住民が住み続けるのが難しくなっています。
京都では対策として、駐車場予約システムや混雑状況の可視化など、混雑緩和策が取り組まれています。
参考:京都観光を取り巻く情勢を踏まえて今後の方向性について|国土交通省
海外の事例
- ベネチア(観光税導入)
- バルセロナ(観光規制)
- タイ・ピピレイ島(環境保護のため一時閉鎖)
- フィリピン・ボラカイ島(観光制限)
- アメリカ国立公園(予約システム導入)
- オランダ(観光抑制キャンペーン)
- フランス(入場制限)
「水の都」ベネチアは、オーバーツーリズムの象徴的な都市です。年間2,500万人の観光客が押し寄せ、住民わずか5万人の街は、観光客に占拠されています。
巨大クルーズ船が景観を損ない、波が建物を侵食し、家賃高騰を引き起こすなど、住民生活への影響は深刻 です。過去70年間で、本島の人口は70%も減少しました。
この状況を打破するため、ベネチア市は抜本的な対策に乗り出しました。
2023年からは、日帰り観光客に最高10ユーロの「入域料」を導入。さらに、重量10万トン以上のクルーズ船のベネチア本島への乗り入れを禁止し、環境保護と住民生活の両立を目指しています。
オーバーツーリズムの具体的な対策

観光客の時間的・空間的分散
オーバーツーリズムの解消には、観光客の時間的・空間的分散が重要です。過度な集中を防ぎつつ、地域全体への観光効果を広げられます 。
時間的分散
- ピークシーズン以外の訪問を促進するキャンペーンの実施
- オフピーク時間帯(平日や朝夕)の観光促進
- 季節ごとの特別イベントやフェスティバルの開催
- 旅行者向けの「夜間観光」や「早朝観光」のプログラム提供
- 人気の観光地から離れた周辺エリアや穴場スポットのプロモーション
- 地元文化や自然を体験できる地域の紹介
- 旅行プランに新たな観光地を組み込む提案
- 交通手段や案内板を通じて他の地域へのアクセスを容易にする
マナー向上を目指す啓発活動
観光マナーの啓発は、地域住民と観光客双方の快適な共存を促進するために重要です。
多言語対応のポスターや看板、ガイドラインを導入する ことで、外国人観光客にも正しい行動を伝えられます。
これにより、無断撮影や騒音問題などのトラブルを減らし、観光地の魅力を保ちながら地域の負担を軽減できます。
観光税や入場制限の導入
観光客の急増に伴う負担を軽減するため、観光税や入場制限を導入する方法も効果的です。
- 観光税
観光地に対する負担を公平に分担させ、観光業の持続可能性を確保できる。 - 入場制限
混雑を緩和し、観光地の過剰利用を防げる。
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成功する観光税・失敗する観光税とは?
- 観光税は観光地の持続可能な運営に必要ですが、その効果を最大化するためには負担とメリットのバランスが重要です。
○ 成功する観光税
成功する観光税は、観光客に過度な負担をかけず、地域のインフラや環境保護、文化遺産の保護に適切に投資される場合です。例えば、税収が観光客の体験向上や地元住民への還元に使われることで、観光地への好印象を維持できます。
× 失敗する観光税
一方で、失敗する観光税は過度に高額で、観光客にとって負担となる場合や、税収が地域社会への還元ではなく、運営コストの増加に使われる場合です。また、税導入前の十分な説明や透明性が欠けると、観光客からの反感を買う原因となります。
適切な税額設定と、税金が実際に地域の発展に役立つことを証明することが成功のカギです。
法規制(民泊の規制、ホテルの新設制限)
オーバーツーリズムを抑制するためには、民泊規制やホテル新設制限も効果的です。- 民泊規制
住宅地への集中を防ぎ、地域住民の生活を守ります。特に、住居専用区域での営業制限が、地元コミュニティとの摩擦を減少させます。 - ホテルの新設制限
観光地への過剰な集客を抑え、観光資源を持続可能に利用するために重要です。観光の質を維持しつつ、地域の過密化を防げます。
住民主体の観光ルール策定
住民主体の観光ルール策定は、 地域の声を反映させ、観光による負担を軽減するために重要 です。
住民が中心となり、観光客との共存を目指したルールを作ることで、観光業の発展と地域生活の調和を図れます。
- 特定の時間帯(例えば早朝や夜間)の訪問を制限
- 観光客に静かに過ごすよう呼びかける
- 特定の場所での撮影を禁止する
- 観光地で出たゴミを適切に処理する
観光地のブランディング
観光地のブランディングも、オーバーツーリズムの対策として有効です。
特定の魅力的な特徴や文化を強調することで、 観光客の関心を他のエリアに向けさせ、集中を避けられます 。
例えば、観光地の多様性を打ち出し、メイン以外の魅力的な場所を紹介すると、観光地の分散が促進できます。

編集部
オーバーツーリズムを防ぐためには、観光地の魅力を適切に発信することも重要です。トリップアドバイザーに登録すれば、地域や施設の魅力を世界中の旅行者に伝えられます。
地域資源の保護と活用
オーバーツーリズムの対策には、地域資源の保護とその適切な活用も欠かせません。
地域資源を守ることで、 観光地の魅力を維持しつつ、持続可能な観光を促進できます 。
- 地元の伝統工芸や祭りを活用した観光プログラムの提供
- 自然保護区や景勝地でのアクセス制限やガイド付きツアーの導入
- エコツーリズムを推進し、環境負荷を減らす取り組み
- 農村地域での体験型観光や地産地消の食文化体験
- 地域の伝統的な生活様式や技術の保存・紹介活動
トリップアドバイザーでの観光地登録と活用
トリップアドバイザーとは旅行口コミサイト
「トリップアドバイザー」とは、 旅行に関する口コミや評価を提供するオンラインプラットフォーム です。
飲食店や宿泊施設が登録することで、訪れたお客様からのリアルなフィードバックを得られます。
これにより、サービス改善と顧客体験の向上が可能になり、口コミが新たな客層を引き寄せ、集客アップにもつながります。
レビューをオーバーツーリズム対策に活用できる
トリップアドバイザーのレビューは、オーバーツーリズム対策にも有効です。
飲食店や宿泊施設が登録することで、 顧客からのフィードバックを集め、混雑を避けるための改善点を明確化できます 。
また、ポジティブな評価が観光客の分散を促進し、地域全体の観光の質向上にもつながる可能性があります。
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まとめ
今回は、観光地に予想を超える観光客が集まる「オーバーツーリズム」が、地域住民や街に負担をかけている現状について触れました。
増加する外国人観光客は、今後の国際イベントに向けてさらに増加が見込まれています。
インバウンド対策を強化する一方で、観光客増加による問題や弊害にも配慮することが、街と人々にとってより快適な環境を作る鍵となるでしょう。

この記事を書いたライター
Wiz Cloud編集部
WizCloud編集部メンバーが執筆・更新しています。 Web関連、デジタル関連の最新情報から、店舗やオフィスの問題解決に使えるノウハウまでわかりやすくご紹介します!