「簡易課税の場合インボイスは不要?」
インボイス制度の施行後も、簡易課税制度は引き続き適用可能です。
しかし、「簡易課税と2割特例はどっちが得?」「計算方法などは変わる?」といった疑問も多くみられます。
今回は、インボイス制度下における簡易課税のメリットや計算方法などを解説します。
インボイス制度によって税負担が増える見込みの事業者や、簡易課税を利用中の場合に役立つ記事です。
インボイス制度にも影響する簡易課税制度とは
簡易課税制度とは
簡易課税制度とは、 消費税の計算や申告手続きを簡素化したもの です。
中小企業の事務負担や費用負担を軽減することが目的で、対象となる課税事業者は任意で制度を適用できます。
なお、インボイス制度の施行後も簡易課税制度は廃止されない ため、引き続き適用が可能です。
編集部
簡易課税制度の内容や要件に関しても、インボイス制度の施行前後で変更等はありません。
簡易課税と本則課税の違いは計算方法
簡易課税と本則課税(本来の課税制度)は、納めるべき消費税の算出方法が異なります。
本則課税では、売上に係る税額から仕入れに係る税額を差し引いた額が納税額です。
一方の簡易課税では、 消費税の課税売上の合計金額にみなし仕入率を掛けて税額を計算 をします。
納税額の算出方法 | |
---|---|
本則課税 | 売上税額ー仕入税額 |
簡易課税 | 売上税額ー売上税額×みなし仕入率 |
みなし仕入れ率とは
みなし仕入率とは、簡易課税の計算において 「仕入れ額を決めるための割合」 です。
なお、みなし仕入れ率は業種ごとに分類されています。
事業区分 | みなし仕入率 | 該当する事業 |
---|---|---|
第1種事業 | 90% | 【卸売業】 (他の者から購入した商品をその性質、形状を変更しないで他の事業者に対して販売する事業) |
第2種事業 | 80% | 【小売業】 (他の者から購入した商品をその性質、形状を変更しないで販売する第1種事業以外のもの) 【農業、林業、漁業】 (飲食料品の譲渡に係る事業) |
第3種事業 | 70% | 【農業、林業、漁業】 (飲食料品の譲渡に係る事業を除く) 【鉱業、建設業、製造業】 (製造小売業を含む) 【電気業、ガス業、熱供給業および水道業】 ※第1種事業、第2種事業に該当するもの・加工賃その他これに類する料金を対価とする役務の提供を除く |
第4種事業 | 60% | 【第1種~第6種事業以外の事業】 (例:飲食店業など) ※第3種事業から除かれる加工賃その他これに類する料金を対価とする役務の提供を行う事業も含む |
第5種事業 | 50% | 【運輸通信業、金融業、保険業、サービス業】 ※飲食店業に該当する事業を除く ※第1種~第3種事業までの事業に該当する事業を除く |
第6種事業 | 40% | 不動産業 |
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複数の事業を行っている場合は注意
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複数の事業を行っている会社が、異なる事業区分の消費税を一括管理している場合は 「最も低いみなし仕入率を用いて計算」すると定められています。
そのため、みなし仕入率の高い事業に関しては、税負担が大きくなってしまう可能性もあるため注意が必要です。
簡易課税制度を適用するための条件
課税売上高が5,000万円以下
簡易課税制度を適用するには、課税売上高が5,000万円以下であることが条件です。
簡易課税の対象となるのは、 個人の場合は前々年・法人の場合は前々事業年度における課税売上高 です。
たとえば、令和4年の課税売上高が5,000万以下であれば、 令和6年から簡易課税での消費税の申告や納税が可能となります。
事前に「消費税簡易課税制度選択届出書」を届出
簡易課税制度を適用するには、あらかじめ「消費税簡易課税制度選択届出書」を提出しておく必要があります。
届出の提出期限は原則 「対象にしたい課税期間が始まる前日まで」 です。
たとえば、令和5年4月1日から課税期間が始まる場合、提出期限は「令和5年3月31日まで」です。
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本則課税に切り替えたい場合は届出が必要
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一度簡易課税事業者になると、基準期間の課税売上高が5,000万円を超えない限り、継続的に簡易課税を適用できます。
自らの意思で本則課税に切り替えたい場合は、適用したい課税期間が始まるまでに「簡易課税制度選択不適用届出書」の提出が必要です。
なお、 簡易課税事業者になってから2年間は本則課税に切り替えできない ため注意が必要です。
簡易課税事業者の場合インボイス登録は不要?
簡易課税制度を利用している課税事業者でも、 適格請求書を発行するためには「適格請求書発行事業者」の登録が必要 です。
あらかじめ、e-Tax・窓口届出・郵送のいずれかで、書類を申請しておきましょう。
インボイス制度導入による影響
課税事業者が影響を受けるケース
「自社が買い手で、仕入先がインボイス発行事業者でない」場合 、簡易課税事業者への影響は大きくなります。
インボイスを発行できない事業者との取引に関して仕入税額控除が受けらなくなり、税負担が増大してしまうためです。
簡易課税を選択することでインボイス制度の影響が少なくなる
簡易課税では、 インボイスの有無が消費税の納税額計算に影響しない ため、場合によってはインボイス制度による税負担の増大を緩和できます。
特に、適格請求書発行業者でない仕入れ先が多い場合は、簡易課税を選択することで納税におけるメリットが大きくなるでしょう。
また、仕入税額を集計・計算する必要がなくなるため、経理の業務負担削減にも繋がります。
簡易課税は個人事業主にもおすすめ
「適格請求書発行事業者」登録には課税事業者への転換が必須となるため、これまで免税事業者だった個人事業主は納税による負担増大が懸念されます。
簡易課税制度は節税に繋がるケースも多い ため、インボイス登録による負担増大をなるべく抑えたい個人事業主にもおすすめです。
インボイス制度における2割特例とは
消費税の納税額の2割特例はインボイス制度の経過措置
「消費税の納税額の2割特例」は、インボイス発行事業者となる小規模事業者に対する負担軽減措置です。
インボイス制度を機に、免税事業者が課税転換したうえで適格請求書発行事業者になった場合、 一定期間は納税する消費税額が売上税額の2割に軽減 されます。
なお、2割特例には期間が設けられており、適用できるのは「2023年10月1日から2026年9月30日までの日が属する各課税期間」です。
計算方法 | 納税額 = 売上にかかる消費税額-(売上にかかる消費税額 × 80%) |
---|---|
対象事業者 |
|
対象期間 | 2023年10月1日~2026年9月30日までの日の属する各課税期間 |
売上800万円(税額80万円)、経費200万円(税額20万円)、サービス業の場合
原則課税の場合 | 納税額=80万円-20万円=60万円 |
---|---|
簡易課税の場合 | 納税額=80万円-(80万円×50%*)=40万円 *サービス業のみなし仕入れ率 |
2割特例の場合 | 納税額=80万円-(80万円×80%)=16万円 |
2割特例の終了後は簡易課税を申請できる
2割特例の期間終了(2026年10月1日)以降の課税期間は、要件を満たす事業者に限り簡易課税制度を選択できます。
また、売上が1,000万円を超えるなど、2割特例の期間中に対象事業者でなくなった場合に関しても、要件を満たしていれば、翌課税期間から簡易課税制度を適用することが可能です。
2割特例の終了後、本則課税よりも納税額の軽減が期待できる場合は 「簡易課税制度選択届出書」の届出 を行い、簡易課税を利用できるようにしておきましょう。
一般課税や簡易課税を選択している場合でも2割特例を適用できる
2割特例は、一般課税と簡易課税のいずれかを選択している場合でも適用できます。
そのため、簡易課税制度の適用を受けるための届出書を提出していたとしても、 2割特例の方が有利な場合は後者で申告することが可能 です。
簡易課税制度を適用するメリット
節税に繋がる場合がある
簡易課税制度では、売り上げにかかる消費税とみなし仕入れ率を基準に仕入れ額を計算するため、場合によっては節税に繋がる可能性があります。
具体的には、 「実際の仕入にかかる消費税額 」が「売上にかかる消費税額×みなし仕入率」よりも安い場合 、納めるべき消費税が少なくなります。
- 売上にかかる消費税額:100万円
- 実際の仕入にかかる消費税額:60万円
- みなし仕入率:70%
【原則課税の場合】
納税額=100万円-60万円=40万円
【簡易課税の場合】
納税額=100万円-(100万円×70%)=30万円←こっちのほうが納税額が安い
経理の負担が軽減される
簡易課税を適用する場合、 売上に係る税額を集計するだけで納税額を算出できる ため、経理の事務処理負担を大幅に削減できます。
通常の課税計算とは異なり、仕入税額控除のための請求書や、消費税額を証明するための書類を管理しておく必要もありません。
簡易課税制度を適用するデメリット
複数の事業を持つ会社は事務負担が増える場合がある
複数の事業を手がけている会社は、業種ごとに消費税を区分しておかなければ、かえって税負担が増えてしまう可能性もあります。
みなし仕入率が異なる事業の納税額を一括で計算する場合は、「最も低いみなし仕入れ率が適用」されるためです。
無駄な税負担を回避したい場合は、 業種ごとに消費税を細かく区分しておきましょう 。
結果的に税負担が大きくなる可能性もある
簡易課税制度を適用したからといって、必ずしも税負担を少なくできるわけではありません。
たとえば、設備投資や仕入れなどによって、 「売上にかかる消費税額×みなし仕入率」を上回る経費が掛かった場合 は、かえって税負担が大きくなってしまいます。
特に、事業投資の額が大きい企業に関しては、上記のようなリスクを踏まえたうえで簡易課税制度の利用を検討しましょう。
簡易課税制度を適用する際の注意点
簡易課税を利用する場合は、「最低2年間の適用が条件」であることを頭に入れておきましょう。
すなわち、 「一度簡易課税事業者になると、最低2年間は本則課税に切り替えできない」 ということです。
経営状況が変化し、簡易課税によって無駄な税負担が発生した場合も、2年目までは変更が効かない点には注意が必要です。
インボイス制度と簡易課税制度に関するよくある質問
A
簡易課税事業者の場合でも、自社が売り手となる場合にはインボイスを発行する必要があります。
ただし、自社が買い手側の場合に関しては、インボイスの受領・保管が不要です。
A
インボイス制度の施行後も簡易課税制度は廃止されないため、引き続き適用が可能です。
A
インボイス制度導入後も、簡易課税制度の内容や要件に変更はありません。
A
簡易課税制度と2割特例のどちらが得かは、業種によって異なります。
ほとんどの業種は、2割特例を選択した方が納税負担が軽くなりますが、卸売業に関しては簡易課税制度の方が税負担が軽くなります。
A
簡易課税制度を利用している場合、取引先から発行されたインボイスの保存は不要です。
ただし、売り手として取引先にインボイスを発行した場合は、その写しを保管しなければいけません。
A課税期間の
簡易課税を新たに適用する場合、申請期限は「対象となる課税期間の前日まで」です。
ただし、インボイス登録を行い2023年10月1日から消費税申告を行う場合に関しては、2023年12月31日までに届出書を提出すれば、簡易課税が適用できます。
A
インボイス制度の施行後も、簡易課税制度は廃止されません。
また、内容や要件に変更等もありません。
A
2割特例に関する情報はこちらから確認できます。
まとめ
インボイス制度の施行後も簡易課税制度は廃止されず、これまでと同様の内容・要件で利用できます。
簡易課税制度を活用することで、節税効果や、経理の業務負担軽減といった効果が得られます。
ただし、複数の事業を行っている場合はかえって税負担が大きくなったり、経理の負担が増大したりする可能性もあるため、自社の財務状況や事業内容を考慮しながら慎重に検討しましょう。
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この記事を書いたライター
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